「押しも押されぬトップアイドル」や「押しも押されぬ名俳優」、このような表現を耳にしたり、実際に使ったりしたことはありませんか?
この「押しも押されぬ」という言葉、実は誤用であることをご存知でしょうか。
ある時「押しも押されぬ」の意味を辞書で調べたことがあったのですが、そこで目にしたのは「押しも押されぬ」は誤った言い方、といったものでした。
その時はかなりのショックを受けたものです。なぜなら、自分はこれまで「押しも押されぬ」が誤用であるとも知らず、何の疑いもなく当たり前のように使っていたわけですから。
この記事では、私のような間違いを避けるためにも、「押しも押されぬ」が誤用であるならば、正しい表現とは何であるのかを「押すに押されぬ」「押しも押されもせぬ」これらの表現を調べながら、本来の使い方とその意味を説明していきます。
誤用である「押しも押されぬ」はなぜ生まれたのか?
「押しも押されぬ」の意味を辞書で調べると、ゆるぎないやびくともしないなどの意味を持つ「押しも押されもせぬ」の誤用との記載がみられます。
誤用が生じた理由としては、「押しも押されもせぬ」という言い回しが長かったからという説があります。
また「押しも押されもせぬ」と同様の意味を持つ「押すに押されぬ」の誤用説。
さらには「押しも押されもせぬ」と「押すに押されぬ」この二つの混同によるものであるという説があります。
二つの混同による説の場合ですと、「押しも押されもせぬ」の前半部分「押しも」と、「押すに押されぬ」の後半部分「押されぬ」とが組み合わさることで「押しも押されぬ」という誤った言葉が生まれてしまったと考えることができるでしょう。
誤用なのに「押しも押されぬ」の使用率の方が高い?
文化庁が発表した平成24年度「国語に関する世論調査」によれば、本来の言い方とされる「押しも押されもせぬ」を使う人が41.5%、本来の言い方ではない「押しも押されぬ」を使う人が48.3%という結果がでました。
なんと、誤用である「押しも押されぬ」の方が、本来の言い方「押しも押されもせぬ」を上回るという逆転現象が起きているのです。
「押しも押されもせぬ」「押すに押されぬ」の意味と語源
「押しも押されぬ」は「押しも押されもせぬ」「押すに押されぬ」の誤用です。本来の言い方である「押しも押されもせぬ」「押すに押されぬ」の意味について、さらに詳しくみていきましょう。
「押しも押されもせぬ」の意味
「押しも押されもせぬ」には、ゆるぎない、どこへ出ても圧倒されることがない、実力があり堂々としている、争う余地のないなどの意味があります。
冒頭にあげた「押しも押されぬトップアイドル」を正しい言い回しに訂正すると「押しも押されもせぬトップアイドル」となります。
そして、その意味は「ほかに争う余地のない、ゆるぎないトップアイドル」です。
「押しも押されもせぬ」その語源をたどると、自らが人を押すこともなければ、人から押されることもないという状態を表しており、そこからゆるぎないや争う余地のないといった意味になったと思われます。
「押すに押されぬ」の意味
「押すに押されぬ」の意味は、「押しも押されもせぬ」と同じで、人が押したくても押せないという状態から、不動の地位や実力があるなどの意味につながったと考えられます。
冒頭のもう一つの文章「押しも押されぬ名俳優」を正しく言い換えると「押すに押されぬ名俳優」となり実力があり不動の地位をもつ名俳優という意味になります。
「押しも押されもせぬ」「押すに押されぬ」を使った例文
「押しも押されぬ」は「押しも押されもせぬ」「押すに押されぬ」の誤用であることがわかりました。
正しい表現である「押しも押されもせぬ」「押すに押されぬ」を使い、例文をいくつかあげてみます。
・彼女は努力の甲斐あって、押しも押されもせぬピアニストとなった
・今や押すに押されぬ存在となったあの大企業の会長も、昔は苦労をしたらしい
・我が校から押しも押されもせぬ野球選手が誕生することを願う
まとめ
ゆるぎない、実力のある、誰からも認められているという意味で使われるのは「押しも押されもせぬ」「押すに押されぬ」であり、「押しも押されぬ」ではありません。
「押しも押されぬ」という言い方が、たとえ多くの支持を得ているとしても、間違いである以上は正していかなければなりませんね。