言葉には間違った使われ方が意外と多くあるものです。「采配を振る」「采配を振るう」という言葉をご存知ですか?こちらも誤用されやすい言葉の一つです。
「采配を振る」と「采配を振るう」では、どちらが正しいのでしょう?そもそも「采配」とはなんなのでしょうか?
この記事では「采配を振る」と「采配を振るう」の意味と、表現としてどちらが正解であるのか、また「采配」とはどういう意味なのかについて解説していきます。
「采配を振る」「采配を振るう」の意味とは?正解はどっち?
「彼が今回の企画の采配を振ることになった」「このチームの采配を振るうのは、現役時代に大活躍した選手だ」このような文章を目にしたり、耳にしたりしたことはありませんか?
この文章の中で「采配を振る」「采配を振るう」という言葉は「先頭に立って、指図する・指揮をとる」という意味で使われています。
「采配を振る」「采配を振るう」では、本当に正しいのはどちらなのでしょうか。
「采配を振る」「采配を振るう」正解は?
結論から言うと「采配を振る」が正しいとされています。
「采配を振る」「采配を振るう」に関しては、文化庁が発表した平成29年度「国語に関する世論調査」というものがあります。
その調査では、「チームや部署に指図を与え、指揮すること」を何と言うかの問いに対し、本来の言い方とされる「采配を振る」を使う人が32.2パーセント、本来の言い方ではない「采配を振るう」を使う人が56.9パーセントという結果が出ています。
この調査において、「采配を振る」が本来の言い方とされていることからもわかるように、「先頭に立って、指図する・指揮をとる」という意味として正しいのは「采配を振る」です。
しかしながら、本来の言い方とされる「采配を振る」よりも、本来の言い方ではない「采配を振るう」を使う人の方が上回るという結果となっているのが現実です。
「采配を振るう」は本当に間違いなの?
先ほど、「采配を振る」の方が正しいといいました。ではもう一方の「采配を振るう」は完全に間違いであると言い切れるのかというと、実はそうでもなく、その判断は少し厄介なのです。
ここでは本来の言い方ではないとされる「采配を振るう」について、取り上げていきます。
「采配を振るう」辞書での解釈
「采配を振る」の意味をいくつかの辞書で調べてみると、「采配を振る」の意味だけを記載しているもの、「采配を振る」が正しく「采配を振るう」は間違いだとするもの、「振るう」の用例として「采配を振るう」があげられているものが存在します。
「采配を振る」が辞書に載っていることは明らかなのですが、「采配を振るう」に関しては、このように辞書によっても解釈が異なり、一つに定まっていないのです。
「振る」と「振るう」の違いとは?
「采配を振る」で使われている「振る」とは、「物の一端を持って、前後左右または上下に何度か動かす動作」を表しています。例えば、指揮者が指揮棒を振る姿をイメージするとわかりやすいかもしれません。
一方「振るう」とは、「大きく、また、勢いよく振り動かす動作」をいいます。時代劇などで刀を相手に向かって大きく振るう姿を思い浮かべてみてください。
「振る」よりも「振るう」の方が、大きな動作であるといえるでしょうか。
この「振る」と「振るう」のそれぞれの意味を踏まえ、「采配」の後に続けて考えてみると、正しいとされる「振る」はもちろん、そうではない「振るう」でも違和感のないように感じます。
そもそも「采配」とは、「戦場で武将が手に持ち、士卒(しそつ・兵隊のこと)を指揮するために振った道具」のことです。
「采配」は厚紙を細く切って総(ふさ)をつくり、それに柄をつけた形状をしています。
「采配」は人に指図するための道具であったことから、転じて「采配」自体が「指図」「指揮」という意味でも使われるようになりました。
指図するための道具である「采配」を大きく、勢いよく振り動かし、「みな、かかれー!」と武将が指揮している光景を想像しても特におかしくはありませんよね?
このように、辞書での扱い方をみても、「振るう」の意味から考えても、本来の言い方ではないとされる「采配を振るう」が、絶対に間違っていると断言できるのかといえば、それは躊躇するところではないかと思います。
まとめ
「采配を振る」と「采配を振るう」、正しいと言えるのは「采配を振る」です。そして間違いとは言い切れないのが「采配を振るう」です。
言葉は時代によって変化していくものです。いずれ、どちらも正しいとされる時が来るかもしれません。しかし、今の段階でより正確さを求めるのなら、「采配を振る」を使う方が望ましいでしょう。